小さな会社では、社長や役員が一時的に会社の費用を個人カードやポケットマネーで立て替えることが頻繁にあります。
特に少人数体制の場合、経費発生時に都度会社名義で支払いを行うのが難しいケースは多いでしょう。
この立替金をどう処理し、後日精算するまでの流れを、最も正確で簡単な方法で解説します。
このマニュアルを実践することで、決算時の処理が格段に楽になり、会社の資金状況を正確に把握できるようになります。
勘定科目の基本:立替金には「役員借入金(短期)」を使う
会社の会計業務で仕分け入力を自社でやっています。
例として2024年10月02日980円でKindle Unlimited月額料金の支払いを会社用のクレジットカードで支払いました。
このクレジットカードの名義は社長個人名のカードです。
これを会社の経費として仕分けするには、どのようにすればいいですか?
会社の経費として仕訳するには、以下の2点を考慮して処理します。
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Kindle Unlimitedの勘定科目: 業務で利用するための書籍・情報収集の費用と考え、主に新聞図書費を使います。
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社長個人名義カードでの支払い: 会社が社長から立替えてもらった形(役員借入金)で処理します。
会社の経費を社長が立て替えたとき、会社には社長への返済義務(負債)が発生します。
この「誰に、いつまでに返すか」によって使用する勘定科目を厳密に使い分けることが重要です。
勘定科目 |
分類 |
意味合い |
今回の費用への適用 |
---|---|---|---|
役員借入金 |
流動負債 (短期) |
決算日の翌日から1年以内に返済・精算する予定の負債。流動負債はすぐに返済が必要な義務を示します。 |
✅ 使うべき科目(精算は次月など短期間で行うため) |
役員長期借入金 |
固定負債 (長期) |
決算日の翌日から1年を超えて長期的に据え置く予定の負債。 |
⚠️ 使わない(社長が会社に対し、経営資金として長期間貸し付ける場合などに限定して使う) |
【重要】 会計ソフトに「役員借入金」がない場合は、流動負債のグループに新規作成してください。
短期の立替金は必ず短期の負債として処理することが、正確な会計処理の基本であり、貸借対照表の流動性分析(すぐに支払う能力があるか)にも影響します。
長期と短期を混合すると、会社の財務状況を誤認する原因となります。
現在使っている会計ソフトに「役員長期借入金」の項目はありますが「役員借入金」の項目がありません。これを作成して入力した方がいいですか?
答え
結論から申し上げると、「役員借入金」を作成して入力するのが最も正確です。
その理由は、Kindle Unlimitedの月額料金のような短期の立替金は、通常、「役員長期借入金」ではなく「役員借入金」という流動負債の勘定科目で処理すべきだからです。
💡 勘定科目の使い分け
会計上、「長期」と「短期(流動)」は以下の基準で区別されます。
Kindle Unlimitedの月額料金980円は、通常、すぐに社長へ精算・返金されるべき費用です。そのため、流動負債である役員借入金として処理するのが適切です。
👨💻 会計ソフトでの対応
お使いの会計ソフトで「役員借入金」の項目がない場合は、以下の手順で対応してください。
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「役員借入金」の新規作成: 会計ソフトの勘定科目設定画面で、負債(流動負債)のグループに「役員借入金」という科目を新規作成し、これを使って仕訳を入力するのが最も望ましい方法です。
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(代替案)「役員長期借入金」を使う場合の注意: もし、ソフトの仕様上どうしても新しい科目を作成できない、または手間をかけたくない場合は、既存の「役員長期借入金」に計上することも実務上は不可能ではありません。
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しかし、その場合は、決算書を作成する際に、この短期的な立替金残高を流動負債のグループに振り替える処理(1年基準、または振替仕訳)が必要になることがあります。
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正確性を重視するなら、流動負債に「役員借入金」を作成して使い分けましょう。
【ステップ1】立替金が発生したときの仕訳(負債の計上)
社長が会社の備品(消耗品費)やKindle Unlimited(新聞図書費)を立て替えて支払った際の仕訳です。
この時点ではまだ現金の動きはありません。
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借方(左側): 新聞図書費 980円(費用が発生したため)
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補足: 勘定科目は、会社の事業内容や慣習によっては「通信費」や「雑費」などを使うこともありますが、書籍サービスであるため「新聞図書費」が一般的で適切です。
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貸方(右側): 役員借入金 980円(社長が会社に代わって立替払いをしたため、会社が社長に返済する義務が発生=負債の増加)
借方(費用発生) |
金額 |
貸方(負債発生) |
金額 |
摘要 |
---|---|---|---|---|
消耗品費 / 新聞図書費 |
980 |
役員借入金 |
980 |
社長立替:〇〇購入分(例:Kindle Unlimited月額) |
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仕訳の意味: 会社は「費用(この場合980円)」を計上し、同時に「社長への返済義務(負債)」を計上します。
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費用科目の使い分け: 複数の立替があった場合、それぞれの費用科目を正しく使って計上します。(例:パソコン用マウスは消耗品費、ビジネス書は新聞図書費など)
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貸方(右側)に「役員借入金」を計上することで、社長への返済義務(負債)が増えたことを示し、立替金の累計額を把握します。
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この処理を、社長が立て替えたすべての備品購入について行い、合計額を正確に把握します。後日、この合計額を基に精算を行います。
貸借対照表ではどのように表記されますか?
この取引が貸借対照表(B/S)にどのように影響するかは、「支払発生時」と「会社から社長への精算時」の2段階で考えます。
1. 支払発生時(2024/10/02)
この時点では、費用(新聞図書費)が発生していますが、その支払いを社長が立て替えたため、会社には社長への返済義務(負債)が発生します。
貸借対照表の場所 | 勘定科目 | 金額 | 影響 |
負債の部 | 役員借入金 | 980円 | 負債が増加します(社長への返済義務)。 |
「新聞図書費」は損益計算書(P/L)の費用として計上されますが、最終的にP/Lの利益がB/Sの純資産の部にある繰越利益剰余金を増減させる形で影響します。
しかし、仕訳を直接B/Sの項目として捉える場合は、この時点では「役員借入金」の増加が最も明確な変化です。
2. 会社から社長への精算時(後日)
会社が社長に980円を返済すると、B/S上の負債と資産の両方が減少します。
貸借対照表の場所 | 勘定科目 | 金額 | 影響 |
負債の部 | 役員借入金 | 980円 | 負債が減少します(返済により相殺)。 |
資産の部 | 現金及び預金(普通預金など) | 980円 | 会社の資産が減少します。 |
結果として、精算が完了すると、貸借対照表上での「役員借入金」の残高はゼロに戻り、会社の現金及び預金が980円減った状態となります。
【ステップ2】現金を引き出したときの仕訳(資産の移動)
後日、立替金を精算するために、会社の銀行口座から現金10万円を引き出した際の仕訳です。
社長個人カードでの立替金精算と現金の引き出しを含む会計処理は、以下の2つのステップに分けて仕訳するのが最も明確です。
1. 現金の引き出し
まず、会社の銀行口座から現金10万円を引き出す仕訳です。
会社の預金という資産が減り、現金という資産が増える、資産間の移動の処理となります。
この取引は資産の科目(現金と預金)の間で金額が移動しただけなので、会社の負債や費用(損益計算書)には影響を与えません。
あくまで、管理場所の変更です。
借方(資産増加) |
金額 |
貸方(資産減少) |
金額 |
摘要 |
---|---|---|---|---|
現金 |
100,000 |
普通預金 |
100,000 |
銀行口座より金庫へ現金10万円移動(精算資金) |
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借方(左側)の「現金」が増えることで、手元の金庫や小口現金の残高が増えます。
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貸方(右側)の「普通預金」が減ることで、銀行口座の残高が減ります。
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預金出納帳への記録: この仕訳は、同時に預金出納帳にも出金として記録されます。
2.会社から社長への精算時(後日、この件単体での処理)
後日、会社がこの立替金(役員借入金)を社長の個人口座などに精算・返金する際の仕訳です。
引き出した現金10万円のうち、3万円を社長に返済した際の仕訳です。
社長への返済義務(負債)である役員借入金が減り、現金という資産が減る処理です。
引き出した現金10万円のうち、3万円を社長に返済(精算)した際の仕訳です。
この時点で、社長への負債が確定的に解消されます。
借方(負債減少) |
金額 |
貸方(資産減少) |
金額 |
摘要 |
---|---|---|---|---|
役員借入金 |
30,000 |
現金 |
30,000 |
社長立替金へ現金3万円精算(負債の相殺) |
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借方(左側)の「役員借入金」を計上することで、ステップ1で計上した返済義務(負債)がその分減少します。
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貸方(右側)の「現金」が減ることで、会社の資産(手元現金)が減少します。
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現金残高の確認: この精算後、会社の「現金」残高は、引き出した10万円から3万円を支払ったため、7万円となります。この7万円が金庫に残っている必要があります。
処理のポイント
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役員借入金(負債の減少): 借方(左側)に計上することで、以前に計上されていた社長への返済義務(負債)がその分減少します。
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現金(資産の減少): 貸方(右側)に計上することで、会社の資産である現金が3万円減少します。
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残りの現金: 銀行から引き出した10万円のうち、3万円は社長への精算に使われました。残りの7万円は引き続き会社の現金勘定として残ることになります。
📌 注意点
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法人カードの利用推奨: 本来、会社の経費は法人名義のカードや口座を使うことが望ましいです。個人カードを継続的に利用すると、公私混同と見なされやすくなるため、法人カードへの切り替えをご検討ください。
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証憑(しょうひょう)の保管: 経費として計上するために、Kindle Unlimitedの利用明細書や領収書(クレジットカードの明細書などでも可)を必ず保管してください。
-
業務関連性の明確化: Kindle Unlimitedの利用目的が、会社の業務に必要不可欠であることを明確にしておく必要があります。
現金出納帳の役割と会計ソフトの連動
はい、一般的にその通りです。
多くの会計ソフトは、仕訳入力(伝票入力)と各種帳簿の作成が自動で連動する仕組みになっています。
これは、現金出納帳が「現金」勘定の取引を時系列で集計した補助簿であるためです。
仕訳と現金出納帳の連動の流れ
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仕訳入力:ユーザーが取引内容を仕訳(借方・貸方)として入力します。
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例:「現金 100,000 / 普通預金 100,000」(銀行から現金を引出し)
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例:「役員借入金 30,000 / 現金 30,000」(社長へ現金を精算)
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総勘定元帳の更新:入力された仕訳は、すべての勘定科目(現金、預金、役員借入金など)の総勘定元帳に自動で転記されます。
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現金出納帳の自動作成:総勘定元帳のうち、「現金」勘定に関わる取引だけを抽出・集計し、日付順、入出金別で表示することで、現金出納帳が自動的に作成されます。
したがって、あなたが「現金」勘定を使った仕訳を正しく入力していれば、現金出納帳は別途手入力することなく、ソフトウェア側で自動的に残高まで計算され、確認・印刷ができるようになります。
これは、会計ソフトの主要なメリットの一つであり、手書き帳簿で必要だった「転記作業」や「集計作業」の手間とミスをなくすことができます。
✅ 現金出納帳は仕訳から「自動」で作成される
現金出納帳は、現金の動きを記録し、手元の現金残高と帳簿上の残高を常に一致させるための補助簿です。
上記の仕訳の中で「現金」勘定を使った取引(現金増加、現金減少)は、すべて現金出納帳の対象となります。
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現金出納帳の役割: 現金の入出金のみに特化し、「いつ、誰に、何のために」現金を支払ったかを記録します。
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会計ソフトの連動の仕組み:
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会計ソフトに仕訳を入力する。
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仕訳に含まれる勘定科目のうち、「現金」科目の取引だけを抽出・集計する。
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その結果を日付順、入金/出金別に整理することで、現金出納帳が自動で完成します。
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手書き不要: したがって、手書きで別途出納帳をつける必要はなく、仕訳を正確に入力するだけでOKです。
現金出納帳の残高チェック:不正・ミスの防止
日付 |
勘定科目 |
入金 |
出金 |
残高 |
---|---|---|---|---|
10/10 |
普通預金 |
100,000 |
– |
100,000 |
10/10 |
役員借入金 |
– |
30,000 |
70,000 |
日々の仕訳入力が終わったら、必ずこの現金出納帳の残高(70,000円)と、金庫や手元にある実際の現金が一致しているかを確認しましょう。
これを「現金実査(げんきんじっさ)」と呼び、毎日の経理作業で最も重要な不正・記入ミス防止のためのルーティンです。
残高が合わない場合は、すぐに原因(未記帳の支払い、計算ミスなど)を特定し、修正仕訳を入れる必要があります。
まとめ:経理処理の3つの重要ポイント
このマニュアルで解説した社長立替金の精算と現金管理において、小さな会社が特に注意すべき3つのポイントをまとめます。
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長期と短期の勘定科目を区別すること:
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日常的な立替金は必ず「役員借入金」(流動負債)を使用し、「役員長期借入金」(固定負債)と混ぜないでください。この区別が、会社の短期的な支払い能力(資金繰り)を正確に把握するために不可欠です。
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現金の流れは必ず2段階で処理すること:
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銀行からの引き出し(預金→現金)と、社長への支払い(役員借入金→現金)は、必ず別々の仕訳として計上してください。これにより、預金出納帳と現金出納帳の両方に正確に取引が反映されます。
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現金残高は毎日確認すること(現金実査):
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会計ソフトが自動で計算した帳簿上の「現金残高」と、金庫の中の「実際の現金」は必ず毎日突き合わせ、一致していることを確認してください。現金の管理は、経理業務における信頼性の基本です。この習慣により、不正や小さな記帳ミスを早期に発見し、会社の財産を守ることができます。
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