会社の車両は、事業活動を支える重要な資産です。
その車両を安全に、合法的に運行するために欠かせないのが「車検」であり、それに伴う経費処理です。
社用車の保険関係についてはこちらで解説しています。

「車検費用の仕訳ってなんだか難しそう…」と感じるかもしれませんが、費用を3つの要素(税金、保険、整備)に分解し、それぞれの勘定科目を正しく適用するポイントを理解すれば、もう迷うことはありません。
この記事を読んで、自信を持って経費処理ができるようになりましょう!
1. 知っておきたい!仕訳の基本用語解説と原則
まず、仕訳を行う上で絶対に理解しておきたい基本用語に加え、「いつ経費として計上すべきか」という重要な原則を解説します。
① 仕訳(しわけ)とは?
会社で起こったお金の動き(取引)を、「借方(かりかた)」と「貸方(かしかた)」の2つの側面から記録することです。必ず借方と貸方の金額は一致します。
② 勘定科目(かんじょうかもく)とは?
取引の内容(中身)を分かりやすく分類するための「見出し」のことです。この科目の選択が、正しい経費処理の鍵となります。 例:「消耗品費」「売上」「現金」「普通預金」など。
③ 借方(左)と貸方(右)の役割
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項目 |
借方(左側):増加・発生の場所 |
貸方(右側):減少・発生の場所 |
|---|---|---|
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資産 |
増加したとき(現金や預金が増えた) |
減少したとき(現金を支払った) |
|
負債 |
減少したとき(借金を返した) |
増加したとき(借金をした、ツケで物を買った) |
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費用 |
発生したとき(経費を使った) |
減少したとき(あまり使わない) |
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収益 |
減少したとき(あまり使わない) |
発生したとき(売上が上がった) |
【今回のポイント】 車検費用は「費用」の発生(借方)であり、「現金」などの「資産」の減少(貸方)を伴います。
④ 発生主義の原則(なぜ「未払金」を使うのか?)
会計では、「現金主義」(実際にお金が動いた時点)ではなく「発生主義」(取引が発生した時点)に基づいて記録するのが原則です。
クレジットカード払いの仕訳で「未払金」を使うのは、この原則に基づいています。
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車検を受けた日:経費の発生(仕訳の義務発生)
-
引き落とし日:現金の移動(資産の減少)
つまり、お金の支払いが後になっても、車検というサービスを受けた時点で「費用」と「支払い義務(負債:未払金)」を記録する必要があるのです。
2. 車検費用の内訳と仕訳に使う勘定科目の判断基準
車検費用は、大きく分けて「法定費用」と「整備・点検費用」の2つに分類できます。消費税の取り扱いが異なるため、領収書の内訳を確認することが非常に重要です。
A. 法定費用(非課税)
法律で定められた支払い義務のある費用で、国や自治体へ納めるため、消費税はかかりません(非課税)。
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費用の種類 |
勘定科目 |
備考と判断基準 |
|---|---|---|
|
自動車重量税・印紙代 |
租税公課(そぜいこうか) |
国や地方に納める税金です。迷わずこの科目を使います。 |
|
自賠責保険料 |
保険料 または 前払費用 |
【重要な判断】 保険期間が1年以内であれば「保険料」(費用)として全額計上できます。 車検のように2年分を一括で支払う場合、1年を超えて費用効果が及ぶため、本来は「前払費用」(資産)として計上し、毎期費用化(保険料へ振替)するのがより厳密です。ただし、重要性が低ければ「保険料」で一括費用処理することも慣行として認められることがあります。 |
B. 整備・点検費用(課税)
車検業者に支払うサービスや物品の代金であり、これらには消費税が課税されます。
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費用の種類 |
勘定科目 |
備考と判断基準 |
|---|---|---|
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点検・整備費用、交換部品代 |
修繕費(しゅうぜんひ) |
車の機能維持・回復のための費用。一般的なオイル交換やブレーキパッド交換など、通常の維持・管理にかかる費用です。 |
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車検代行手数料 |
支払手数料 または 車両費 |
会社によっては、車関連の費用をすべて「車両費」に統一している場合もあります。科目を統一することで管理が楽になります。 |
【応用】修繕費?それとも資本的支出?(費用と資産の分かれ道)
ここが最も複雑になるポイントです。整備費用が高額になった場合、その処理方法が変わることがあります。
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処理方法 |
勘定科目 |
費用が該当するケース |
|---|---|---|
|
費用処理(修繕費) |
修繕費 |
車の通常の維持・原状回復のための修理・部品交換。または、修理費用が20万円未満である場合。 |
|
資産処理(資本的支出) |
車両運搬具 (資産) |
車両の耐用年数を延長させる、または価値を著しく高める大規模な改修。例えば、エンジンを新型に載せ替えたり、車両のフレームそのものを補強したりするなど。この場合、費用ではなく資産の取得として処理し、減価償却で費用化します。 |
3. 【パターン別】車検費用の具体的な仕訳例(3つのケース)
ここでは、最も一般的な3つのパターンで仕訳を解説します。
【前提とする取引】
-
法定費用(租税公課): 30,000円
-
自賠責保険料(保険料): 20,000円
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整備費用(修繕費・課税): 55,000円(うち消費税5,000円)
-
合計支払額: 105,000円
パターン1:全額を現金(または普通預金)で一括支払いした場合
最もシンプルで基本的な仕訳です。
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日付 |
借方(左) |
金額 |
貸方(右) |
金額 |
摘要 |
|---|---|---|---|---|---|
|
○/○ |
租税公課 |
30,000 |
現金 (または普通預金) |
105,000 |
〇〇車検 自動車重量税等、一括支払い |
|
|
保険料 |
20,000 |
|
|
〇〇車検 自賠責保険料 |
|
|
修繕費 |
55,000 |
|
|
〇〇車検 整備費用 |
|
|
合計 |
105,000 |
合計 |
105,000 |
|
パターン2:整備費用をクレジットカードで支払った場合
法定費用は現金、整備費用はクレジットカードで支払った場合です。整備費用分だけ「未払金」を計上します。
ステップ1:車検費用の支払い時(カード利用時)
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日付 |
借方(左) |
金額 |
貸方(右) |
金額 |
摘要 |
|---|---|---|---|---|---|
|
○/○ |
租税公課 |
30,000 |
現金 (または普通預金) |
50,000 |
法定費用(現金支払い分) |
|
|
保険料 |
20,000 |
未払金 |
55,000 |
整備費用(カード払い分) |
|
|
修繕費 |
55,000 |
|
|
|
|
|
合計 |
105,000 |
合計 |
105,000 |
|
ステップ2:カードの引き落とし時(後日)
銀行口座から引き落とされた際に、負債(未払金)を精算します。
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日付 |
借方(左) |
金額 |
貸方(右) |
金額 |
摘要 |
|---|---|---|---|---|---|
|
△/△ |
未払金 |
55,000 |
普通預金 |
55,000 |
○月分クレジットカード利用料(車検整備費用) |
パターン3:大規模な部品交換を伴い、資本的支出と判断された場合
整備費用55,000円のうち、例えば30,000円分が車両の耐用年数を延長する大規模な改修と判断され、資産(車両運搬具)に含めることになったケースです。
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日付 |
借方(左) |
金額 |
貸方(右) |
金額 |
摘要 |
|---|---|---|---|---|---|
|
○/○ |
租税公課 |
30,000 |
現金 (または普通預金) |
105,000 |
〇〇車検費用一括払い |
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保険料 |
20,000 |
|
|
|
|
|
修繕費 |
25,000 |
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通常整備分(費用) |
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車両運搬具 |
30,000 |
|
|
耐久性向上の大規模改修分(資産) |
|
|
合計 |
105,000 |
合計 |
105,000 |
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4. まとめ:仕訳の成功ポイントとチェックリスト
車検費用の仕訳の成功は、内訳の正確な分解にかかっています。
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チェックポイント |
目的 |
使用する勘定科目 |
|---|---|---|
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法定費用を確認 |
非課税であること、税金・保険に分ける |
租税公課、保険料(または前払費用) |
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整備費用を確認 |
課税対象であること、維持管理費用か |
修繕費、支払手数料(または車両費) |
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大規模な改修がないか |
費用(修繕費)か資産(車両運搬具)か見極める |
修繕費 vs. 車両運搬具 |
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支払方法を確認 |
現金か、後払い(未払金)か |
現金・普通預金 vs. 未払金 |



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